その他活動

国際シンポジウム「微細藻類のバイオテクノロジー ~食糧・環境・エネルギー~」

期日: 2010年5月31日(月) 10時~17時 (18時から懇親会)
場所: 東京大学農学部内 弥生講堂(一条ホール(シンポジウム)/アネックス(懇親会))
    〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1   ℡. 03-5841-8205

| プログラム | ご案内状 | 

開催概要

このたび東京大学応用微生物研究所、海洋バイオテクノロジー研究所等において微細藻類研究およびマリンバイオテクノロジー研究の牽引者として永年貢献され、また、マリンバイオテクノロジー研究会および同学会の創始者でもあります宮地重遠先生、微細藻類の培養システムを確立されましたホルスト・センガー博士(ドイツ)をお招きして、下記のシンポジウムを開催致すこととなりました。さらに、光合成の炭素固定の基本回路であるカルビン・ベンソン回路の発見者として著名なA.A. Benson博士からは本国際シンポジウムに向けて、ビデオ・メッセージを戴いており、上映する予定です。

この機会に、「微細藻類のバイオテクノロジー」や「マリンバイオテクノロジー」研究に関心の深い方々、特別講演の宮地重遠先生やSenger先生と共に研究に携われた方々、関連の深い方々皆様に、当国際シンポジウムおよび懇親会に是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

本シンポジウムのテーマは、微細藻類やマリンバイオテクノロジーのみに限定されるテーマではありません。現在世界が直面している、食糧・環境・エネルギー等の課題についてご興味を持ち、取り組んでいらっしゃる方々にも参考になるよう企画しており、藻類分野外の方にも十分関心を持っていただける内容となっております。また、国内の大学、研究所及び企業から現在活発に研究されている研究者にご講演をしていただきます。

つきましては、是非ご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

国際シンポジウム実行委員会実行委員会委員(平成22年4月)
相澤克則   安部俊彦   池田 穣   池本尚人   石倉正治   岩崎郁子   臼田秀明
上野 修   大杉 立   大森正之   岡部敬一郎  葛西身延   加藤美砂子  鎌田芳彰
 神谷明男   朽津和幸   蔵野憲秀   小泉淳一   嵯峨直恆   桜井英博   佐々木孝行
佐藤 章   佐藤 朗   鮫島宗明   下河原浩介  白岩善博   鈴木英治   立木 光
竹山春子   都筑幹夫   戸栗敏博   中西弘一   中村保典   廣澤孝保   福澤秀哉
藤原祥子   宝月大輔   松永 是   真部永地   丸山 正   幹 渉    三橋 敏
宮下英明   湯浅高志   楊 仕元

マリンバイオテクノロジー学会
国際シンポジウム実行委員会
代表 白岩善博・都筑幹夫
事務局:〒305-8572 つくば市天王台1-1-1 
筑波大学大学院生命環境科学研究科 白岩善博
TEL: 029-853-4668、FAX: 029-853-6614

終了報告(代表 白岩善博・都筑幹夫)

"微細藻類のバイオテクノロジー~食糧・環境・エネルギー
Microalgal BiotechnologyーFood・Environment・Energy"

2010年5月31日 (May 31st, 2010)
東京大学農学部弥生講堂・一条ホール&アネックス
(Ichijo Hall & Annex, Yayoi Hall, The University of Tokyo)

このたび東京大学応用微生物研究所、海洋バイオテクノロジー研究所等において微細藻類研究およびマリンバイオテクノロジー研究の牽引者として永年貢献され、また、マリンバイオテクノロジー研究会および同学会の創始者でもあります宮地重遠先生を讃える国際シンポジウムが、280名程の多くの参加者を得て開催されました。参加者の内訳は大まかに大学・研究機関より約80名、企業関係80名、学生・大学院生約80名、その他約40名でした。

基調講演3題、ビデオメッセージ1題、講演7件、およびポスター発表45件がありました。ポスターセッションは、身動きし難いほどの盛況であり、会場が狭く感じられました。ご参集の皆様、ご講演の皆様、ポスター発表の皆様、関係者スタッフの皆様に厚く御礼申し上げます。特に、基調講演をされた宮地重遠先生、センガー博士(ドイツ)、グダン博士(フランス)、ビデオ・メッセージを戴いた光合成の炭素固定の基本回路であるカルビン・ベンソン回路の発見者として著名なA.A. Benson博士に厚く御礼申し上げます。

本国際シンポジウムは、藻類バイオマスエネルギー研究への注目度を反映して主催者側の予想を上回る参加者があり、研究への熱気を感じることが出来ました。このような背景の元ではありながらも、微細藻類研究の創始者ともいえる先生方のご講演や、微細藻類の二酸化炭素固定に関する細胞生理学、分子生物学、マリンバイオテクノロジー研究の根幹をなす基礎研究の中心的研究者による研究紹介、最先端の微細藻類の応用・実用化研究等幅の広い分野を網羅する話題を提供していただきました。

本シンポジウムを契機として、多くの参加者の皆様の微細藻類および微細藻類研究に関する理解がさらに深まったものと期待しております。

平成22年6月吉日
マリンバイオテクノロジー学会
国際シンポジウム実行委員会
代表 白岩善博・都筑幹夫

参加者レポート(お茶大大学院前期課程1年 高井美智留)

「微細藻類のバイオテクノロジー〜食糧・環境・エネルギー〜」に参加して

お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科博士前期課程1年 高井美智留

おだやかな5月最後の日に、永年微細藻類の光合成およびマリンバイオテクノロジー研究に多大な貢献をしてこられた宮地重遠先生のご功績を讃え、合わせて傘寿を記念した国際シンポジウム「微細藻類のバイオテクノロジー 〜食糧・環境・エネルギー〜 」が東京大学農学部弥生講堂一条ホールにて開催された。10時からの講演を前に、会場には9時頃から大勢の参加者が詰めかけ、建物の中に足を踏み入れただけで、講演が始まる前から本シンポジウムの活気を感じることができるほどであった。配布されたプログラムを手に取ると、緑藻類を大ガメ(培養ビン)で通気培養している様子を描いたカラーのイラストが印刷されていて、シンポジウムの内容に期待が高まった。本シンポジウムでは、午前中に3題の基本講演と1題のビデオメッセージ上映、午後には7題の講演が行われた。ポスター発表は44題であった。

東京薬科大学の都筑幹夫先生の開会の辞の後に、満席の会場で、宮地重遠先生が、基調講演としてマリンバイオテクノロジーの歴史について説明された。マリンバイオテクノロジーという学問領域を開拓され、国際マリンバイオテクノロジー会議(IMBC)、アジアーパシフィックマリンバイオロジー学会(APMBC)の創設に力を尽くされた先生の口調は、淡々としたものであったが、その陰には多くの苦難があったであろうことが想像できる。日本が常に世界をリードしながら築いてきたマリンバイオテクノロジーの歴史の重みに支えられ、現在の多彩なマリンバイオテクノロジー研究が花開いていることを実感した。ご講演の後に、座長の大森正之先生からの「サイエンスにおいて重要なことは何か?若い科学者に向けてメッセージを発信してほしい。」という質問があった。宮地先生は、間髪を入れずに「To keep interest, that’s all !」とお答えになった。研究を行っていて壁にぶつかった時に先生のお言葉を思い出し、なぜ、どうしてと興味を持って次に進める力を持てるようになりたいと思った。

次のHorst Senger先生による基調講演では、マリンバイオテクノロジーの歴史、これまで研究に用いられて来た単細胞緑藻であるChlorella pyrenoidosa(オットー•ワールブルグ博士由来)、Scenedesmus obliquus、Chlorella ellipsoidea(Tamiya strain)の歴史、クロレラの食用化などについて説明された。特に緑藻の株の歴史は、それぞれの株を用いて、誰が何の研究を行ったかという系譜になっていて、現在の微細藻類研究の原点を見たような思いであった。また、お話の最後には微細藻類の水槽を屋根に乗せ、微細藻類が生産したH2で動く自動車を作るのが夢だとおっしゃっていたのが印象的だった。

最後の基調講演でClaude Gudin先生は、フォトバイオリアクター、微細藻類の培養法、Botryococcus brauniiの炭化水素合成などについて説明された。微細藻類を利用した有効な産業をこれから更に開発していくためにはもっと努力が必要であるとおっしゃっており、身が引き締まる思いだった。

来日がかなわなかったAndrew A. Benson先生はビデオメッセージで、ご自身の最もエキサイティングな研究などについて説明された。最後に日本のマリンバイオ科学者へのメッセージとして「人と自然を介して科学者は、あらゆる可能性に向かって挑戦を!さぁ、頑張ろう!!」とアドバイスをくださった。92歳というご高齢にも関わらずお元気で、とても力強い臨場感あふれるメッセージを送ってくださったことに感動した。Benson先生の研究室の様子も撮影されていた。無造作に立てかけられているノートの背表紙の年号が1940年代や50年代であることに、今でも研究者として活躍されている先生ご自身の歴史を垣間見た。

午後の最初の講演では(株)ヤマハ発動機の佐藤朗先生が、微細藻類の商業的大量培養に求められる要素などについて説明された。多くの微細藻類を培養する技術は確立したけれど、コストをかけて増やす価値のある微細藻類はまだまだ足りないとおっしゃっていたのが印象的だった。

マイクロアルジェコーポレーションの竹中裕行先生は、現在商業化に成功している微細藻類や、昔から食用とされてきたスイゼンジノリなどの藍藻の生理機能について説明された。また火星のテラフォーミングにおいても藍藻が利用できるということを興味深いと感じた。

(株)デンソーの蔵野憲秀先生は、アルカリ性の温泉から分離した緑藻シュードコリシスティスに関する研究を紹介された。シュードコリシスティスは窒素欠乏下で経由相当のオイルを合成する。窒素欠乏によってオイル生産に関与する遺伝子の発現を誘導する転写因子を特定し、転写因子を人為的にコントロールすることでオイル増産に結びつけようとする取り組みは、基礎研究としても大変興味深い素材であると思った。また、シュードコリシスティスの炭化水素には炭素数が奇数のものと偶数のものがあるということに驚いた。

京都大学の福澤秀哉先生は、クラミドモナスのカーボニックアンヒドラーゼによるCO2濃縮・固定機構などについて説明された。特にタンパク質LCIBが光合成の時にだけピレノイドに局在しCO2の漏出を防ぐことによって低CO2条件に適応するという機構を興味深いと感じた。

京都大学の宮下英明先生は、メジャーなクロロフィルとしてクロロフィルdを持つシアノバクテリアであるアカリオクロリスの発見とその分布について説明された。クロロフィルdは1943年に紅藻から単離されたが、その検出に再現性がなく、アーティファクトではないかと言われていた曰く付きのクロロフィルである。クロロフィルdを持つシアノバクテリアは全世界に分布していること、クロロフィルdはクロロフィルaとは異なり近赤外光を吸収するために、地球上の炭素循環を駆動する原動力として無視できない貢献をしている可能性を説明された。現在、光合成色素の分析は高速液体クロマトグラフィーで行われる。通常の分析条件では、クロロフィルdはクロロフィルbとほぼ同じリテンションタイムのために今まで見つけられなかったと説明なさっていて、自然科学の世界では先入観にとらわれずに疑問を掘り下げて行くことが、大きな発見につながることがわかった。

神奈川大学の桜井英博先生は、シアノバクテリアのニトロゲナーゼを利用した水素生産、海面を利用した大量培養について説明された。地球表面の1.5%の海域利用で人類社会が利用する50%のエネルギーを生産できるというご説明によって、海域利用の重要性を実感した。

東京農工大学の松永是先生は、低炭素社会の実現のために微細藻類を用いて行ってきたこととその問題点や、ナイルレッド染色による極性・非極性脂質のスクリーニング、窒素源濃度の脂質合成と成長に与える影響などについて説明された。

講演の後には、現在のマリンバイオテクノロジー学会会長である北海道大学の嵯峨直恒先生のお話があり、筑波大学の白岩善博先生の閉会の辞で幕を下ろした。
昼休みと講演終了後に行われたポスターセッションでは、終始、活発なディスカッションが行われた。学生による発表も多く、幅広い研究分野のポスターを見ることは、大変、勉強になった。エントランスホールでは、(株)サントリーが提供してくださった飲み物を片手に、あちこちで、白熱した議論が繰り広げられたり、再会を喜ぶ研究者たちで盛り上がっていた。当日は、用意した250枚のネームカードはあっという間になくなってしまったそうである。どの講演でも、後方には必ず立ち見の参加者がいて、自分が座っているのが申し訳ないくらいであった。自分の研究と今後の微細藻類研究のありかたを考える機会を与えてくれた本シンポジウムに参加でき、私にとって大変、有意義な1日となった。

ページの先頭へ